『 ある春の命の物語 第8章 』
2002.5.15 ( 水 )
孵化から19日目
・昼頃の事、
親ツバメ2羽がどうもいつもとは違う雰囲気で飛び回っていた。

巣の近くを細かくさえずりながら飛び交っている。
子供たちの間近にまで来ても、スイっと向きを変えてあっちの方に飛んでっちゃう。
子供たちは「?」の顔をしている。
パパ、ママが近くに来ればやはり子供達は
「ちゃー」を叫ばないではいられない。
それでもパパ、ママはあっちへ行っちゃう。
どう見てもこれは、
「飛んで御覧なさい」としきりに促している光景である。
・この前の日、床屋さんAの子供達が「初飛び」をしていたが、
そこの子はここの子供達より2〜3日ほど早く育っていたように思う。
すると、ここの子供達も
明日、明後日あたりには飛び始めるのだろうとは思っていた。
にしても、この日はまだ早いんじゃあないのかなと思った。
・昨日の初飛び子ツバメの姿を思い出す。

印象は「口のよこっちょがまだ白いのに飛ぶのか!」
だった。
ここの子達が昨日の子達と比べてどの程度の顔になってんのか
ちゃんと見ておかなくちゃ。
キャタツ。
今更ではあるが、ツバメの子は人の顔や手が近づいてきても
確かに決して嬉しそうではないが、
「わー!」とか「きゃー!」とか「たすけてー!!」のような
絶叫パニックにはならない。
雨戸の戸袋の中のムクドリの子供達は
ちょっと覗いただけで完璧に凝固する。
手なんか出したらタイヘンな事になるだろう。
ツバメの子も手をそーっと近づけると
「何さ」って眼では見るし、
「やだもん」と、少し身体を小こく縮めたりはするけど、その程度どまり。
(第5章にも少し書いてありますが、
何度かキャタツに登って巣を覗いたり、ヒナに触れてみたり、
さらにそれを親鳥に見つかったりしたにもかかわらず、
この巣の親鳥は子育てを放棄したり、こちらに向かって威嚇をしてきたり
警戒の声を発したりするようなことはありませんでした。
ただ、本当に、今回このような観察をしたにもかかわらず、
親鳥が子育てを続けてくれたのは運がよかっただけのことかもしれません。
もともと人の気配が多いからこそこの場所を選んでくれているのは確かで
他のひっそりと巣を作る野鳥と同じくらいに刺激しないようにするといった、
極端な配慮は不必要なのかもしれませんし、
ツバメが巣を作る場所からして一切近づかないような事は
不可能ではありますが、
ツバメにとってどの程度なら許容でき、
どの程度だと支障がある事なのかは定かではありません。)
そういえば、いつの頃からか “ あらゆるよぎる影
” に
ことごとく「ちゃーちゃー反応」をする事はしなくなっていた。
目が開いたのが10日目頃だった。
きっとその頃は光を感じられる程度であったのだろう。
それから数日、多分14〜15日目か、
うどっち頭の少し前辺りの頃か、
物の形や色がだんだんはっきり分かるようになり、
お父さんや、お母さんでは無いもの、を、
区別出来るようになったのだろう。
・余談ではあるがツバメのアタマは、
いや、鳥のアタマというものは大体において

雨だれを横向きにした形をしている。
くちばしの長ーい丹頂鶴や
鋭く曲がった猛禽類、ワシタカ系や、
やったらでっかいくちばしのオオハシやら
あとペリカンなどは、
この横向き雨だれのアレンジ型と言う事に。
眼は拡大すると、

こんな形。
実際には上下のマブタはほぼ同じ長さ、丸みの弧であるが、
ナマで向き合うと、位置と角度と印象と表情で、
上の弧の方が長く感じられる。
・さて、所で、この日の間近で見た子ツバメの姿は

相変わらず、不機嫌そうな眼差しではあったが、
アタマや首筋にフワフワ毛が若干残っており、
やはり昨日の「床屋さんAの子」に比べて
まだやや幼げな感じがした。
飛ぶのはもう少し先じゃないのかな。
それでもママ、パパは盛んに子供たちの回りでフェイントかけまくり、
「おいでおいで」「飛んでごらん」と、誘っている。
「まだ早いんじゃないのかなぁ、まだムリじゃないのかなぁ」
と、ご両親に話しかけて見たが、
全く相手にはしてもらえなかった。
2002.5.16 ( 木 )
孵化から20日目
・それにしたって今日、明日には、と思っていたこの日、

巣がカラだ!!!!!
いったいどういう事?
どうして?
いきなり?
やっぱり?
こんな所でホントすんませんが、この続きは『
第9章 』にて。
つづく