『ある春の命の物語 第15章 』








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5月17日
コチラの巣は、第9章 で少し触れたが、地図を御覧になれば分かる通り、
の巣とは道を挟んで向かい側に作られており、
あれだけツバメツバメとツバメバカになっていたというのに
何で今まで気づかなかったのだろうというニューハウスである。

前日もこの巣の辺りでウロウロしているツバメの夫婦を見かけた。
にしても、この巣がいつの間に作られていたのか…

夜は留守だった。産卵はまだなのだろう。


5月18日 昼間

近くの電線に2羽でとまったり、片方が近づくとチチチ!と怒ったり
妙におしゃべりでなにやらチッチチュッチュと色々な事を言いながら
落ちつかない様子で飛びまわったりしていた。

時に巣に入ってすわってみたり。

もう一羽の方が巣のある所とは違う壁や、その同じ建物の二階の壁の前で
ホバリングなどしてみたり。


そしてある日、ある事に気がついた。

第12章で紹介した色々な巣を見せてもらいながら、
からそれほど離れて居ないこの巣に今ごろ新しいツガイが現れるのは
いったいどういう事かと思っていたが、

この で子育てを始めたツガイというのは、
のツガイではないのだろうか、という気がしてきたのである。

の巣ではほとんど「初飛び」間際の所まで子供は育っており、
さらに、親鳥達が子供に飛び立つ事を促す様子が見られていた。

その翌日には巣はカラになり、
さらにその翌日には巣が破壊されて居た事を考えると、

やはりカラスによる襲撃があり、
子供を失った両親達が、
「初飛び後の研修期間」を経ることなく、次の子育てを開始した姿が
この の巣でみられたという可能性が高いように思うのである。


ただこれもあくまで推測であって、
このツバメ達のDNA鑑定でも出来ない限り、
それを確認する手段はない。


5月20〜21日
昼も夜も留守!

5月25日 夜10時頃

留守や。

このように
しばらく姿を見かけない時期があったので
あるいは子育てはしない事になってしまったのかと思い、
数日間、この巣の様子を注意して見ていなかった。

が、ある時、ここの巣にちゃんとヒナ達が育っている事に気がついた!


6月25日
ウドっち期を確認。
親ではないものを見分けられる時期ではあるが、
動くものに反射的に反応してしまう。

出来るだけ「通りすがりの人」を装ってチラ見しながら
立ち止まらないように見てはいるが、
どうもちゃんとこっちを目で追っており、
「本当にただ通り過ぎる人」と
「通りすがりを装って自分達に視線を送る人」
の違いが分かるらしい。

仕方がないので道を渡って帰ろうと思い、
横断歩道がないのでクルマ通りが切れるのを
植木の陰に隠れて待っていた。

そこに親鳥が帰ってきてしまった。
ヘタに動いてもかえって怪しいだろうけど
立ち去った方がよいだろうけど
ナンだかもうテオクレで、

親鳥はこっちを横目で睨みながら
よそ見しながら子供に取ってきた虫を食べさせようとしたので
ナンとその虫を落っことしてしまった。

食べ損ねたヒナにとってはクレダマシになってしまい、
「ちゃ?」と言った。

のに、落とした事には親は気づかなかったようで
そのまま次の虫を取りにいってしまった。

悪い事をしたなぁと思いながら
どんな虫を食べさせているのだろうと
落っこちた虫を見てみると黄緑色のアオムシだった。

モンシロチョウの幼虫とよく似たタイプのアオムシだけど
微妙に雰囲気が違うので、違う種類のチョウチョかあるいは蛾の赤ちゃんであろう。

そして、小さな虫なのに外から見てそれほど外傷はなく、
しかも生きていた。

虫にしてみれば九死に一生を得たような形であるが、
ツバメに捕まえられた時点で体内に致命傷があるであろうとは思われたものの、
せっかくなので何かのチャンスを得られれば、と
そのヘンの植木に移してやった。

ツバメの見方か虫の見方か、自分の立場がよく分からなくなった。

(でもどんな植物を食べるアオムシか分からなかったし、
その植木の葉っぱが食料になった可能性は低いように思うし、
おそらくその後死んでしまったとは思う。)


この花屋に勤めている友達が
その後の事を報告してくれて、
6月26日から30日の間に2羽が落ちて死んでしまったそうで
丁寧に埋葬してあげたというお話をしてくれた。


そういった残念な事件もありながら…

7月4日!

残った2羽の内、一羽がついに初飛び!
道を挟んでKの巣の近くの電線まで頑張って来た。
「電線ちゃーちゃー」も披露してくれた。

パパツバメは巣の外で子供の近辺に陣取ってナワソン(縄張りSong)を熱唱。

飛び立つ瞬間は見逃したが、
間違い無く、今日初めて飛び立った、まさにその姿を見る事が出来た。

この巣のツガイは多分 のツガイであろうと思っていたので
この初飛びの子は、あの6羽の弟か妹と言う事になる(という可能性が高いと思われる。)


7月8日火曜
ワールドカップも終了して一週間。
夜7時30分頃。

の巣の子供も飛び立ち、

の方に立ち寄る必要のあるツバメは
もう居るはずも無いと思いつつ、
未だに、もしや、という思いがぬぐえずにいて、
夜の の巣を何となく見に行って見た。

すると…

の巣に2羽のまだ燕尾のない子供ツバメがとまっていた…


!?!?!?!?!?

の巣にツバメがとまっていた!


この時の感激といったら!!!!!

2羽という事は、 の子と考えて間違いなさそうだ。



最初、2羽見かけた時点では親鳥のツガイかと思ったが
眠っているのを起こさないようにしっぽをよく見てみると
やはり燕尾はない。

子供のツバメである。

あの、突然巣がカラになった日から
2ヶ月と少し。
本当に久し振りにこの巣にツバメがとまっているのを見る事が出来た。

この2羽は捜し求めて居たあの6羽の子供達ではない事は確かだ。

あの6羽のが生き残っていたとしたら、
の1回目の子供達など一緒に
どこかの葦原で若いツバメの同士で集まって暮らしているはずである。

このカラになって、しかも破壊されてしまった巣を
ちゃんと「ツバメである自分が留まるべき場所」と認識してくれたのが
何とも嬉しい。

来年もこの巣で子育てが見られる事を祈って
2002年の春(から夏にかけての)命の物語を締めくくりたいと思う。






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